本研究では,新型コロナウイルス(以下,「コロナ」という。)禍のタイにおける観光振興策,そして,アフターコロナに向けて策定された「第3次国家観光開発計画(2023-2027)」の概要について,タイ観光・スポーツ省,タイ政府観光庁への聞き取り調査をもとに解説した。また,日本の独立行政法人である日本貿易振興機構バンコク事務所と日本政府観光局バンコク事務所への聞き取り調査の結果をもとに,コロナ禍におけるタイの経済社会情勢や,タイの観光市場の特徴などの考察について説明した。
タイでは,観光客の滞在日数や観光収入,SDGsとの連動へと観光戦略の視点を変え,①Resilient Tourism(回復力のある観光),② QualityTourism(質の高い観光),③Tourism Experience(観光体験),④ Sustainable Tourism(持続可能な観光)の4つの戦略のもと,持続可能で高い付加価値の観光・観光産業への再構築を目標の柱としている。さらに,コロナ禍の状況を踏まえ具体的な数値目標は定めず,①強く,バランスの取れたタイの観光,②観光の接続性とインフラのアップグレード,③信頼を築き,価値の高い旅行の提供,④持続可能な観光経営・体験観光を達成目標に,観光を変化に対応できるレジリエンス(回復力)な産業分野に成長させることに力点を置いている。こうした戦略の位置付けは,新たな観光立国推進基本計画の改定を進める日本においても参考になると考えている。