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改醸法実践録について

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佐々木慧

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改醸法実践録の復刻を受けて
この度広島杜氏組合から「改醸法実践録」が復刻されたそうだ。これは安芸津の酒造家三浦仙三郎が1898年に執筆したもので、現在の吟醸酒に通じる軟水醸造法を世に広めたものだ。
広島で軟水醸造法が普及した頃の明治四十年(1907)に開催された第一回清酒品評会では広島の「龍勢」(藤井酒造)、と「三谷春」(林酒造)が灘や伏見(当時のトップブランド)の酒を抑えて一位と二位を独占した。仙三郎は審査員の一員としてこの成果を見届け、翌年亡くなった(享年61歳)が彼の生み出した軟水醸造法は後に吟醸造りと呼ばれる華やかな香りが特徴的な製造法へと進化していくこととなる。
清酒の造りでは蒸米と麹と水を三段階に分けて仕込んだもろみ中で麹菌がデンプンを糖に、酵母が糖をアルコールに変えて酒となる。仙三郎が「改醸法実践録」を著した当時は麹菌や酵母の正体も知られておらず、杜氏の経験則に基づく造りが横行していた。腐造(仕込み中に雑菌が増殖して変質すること。現在はほとんど見られないが当時は頻発していた)しないことが第一とされた造りでは現代で言うところの「高温短期型」の仕込みで酵母の発酵を促進させ、短期間でアルコール濃度を高めて雑菌の増殖を防いでいた。そのため、灘の宮水に代表される酵母の発酵を促進させるミネラル分を多く含む硬水(中硬水)が酒造りに良い水とされてきた。こうして造られた酒は現代の酒に比べて味が濃厚で酸味が強く辛口であったと考えられる。実際に明治三五年の一般酒は酸度3.8、日本酒度+10と今日のそれに比べ著しく高い。
 しかし軟水で灘と同じ造りを行っても腐造となるケースも多かった。ミネラルが不足するため酵母がアルコールを作れないためだ。軟水醸造法ではこのミネラルを麹に求めた。衛生的な麹室(蒸米に麹菌を撒いて麹を作る部屋)で時間をかけて麹菌が米全体を覆うまで作った麹からは酵母の発酵に必要なミネラル分が少しずつ溶出することが後に明らかになった。この麹のおかげで軟水でも迅速に酵母からアルコールが供給され腐造を防ぐことができたと考えられる。
「改醸法実践録」では麹の作り方からもろみの管理まで細かく記されてあるが、特に麹室の改良や、仕込み蔵の清潔さが重視されてある。寒暖計(温度計)を用いた温度管理なども当時としては先進的であったであろう(以前は指を入れて測っていた)。
 衛生管理を重視し、発酵の穏やかな軟水を用いた結果、これまでは不可能とされた「低温長期型」の仕込みが可能となった。低温長期型の仕込みでは酵母がエステルなどの吟醸香の元となる香気成分を多く出す。また酵母の数も少ないため、淡麗で華やかな香りのする吟醸酒のような酒質になったと考えられる。
仙三郎は低温長期型の仕込みを指向したわけではなく、満足のいく酒質を求めた結果低温長期型仕込みにたどり着いた。彼は一途に「百試千改」の苦労を重ね、軟水醸造法を完成させた。1871年に24歳で酒造りを始めたが当初は腐造を繰り返した。一念発起して(経営者側なのに)一蔵人として灘で修業した成果を可能な限り数字にして持ち帰り実行した。時には灘の醸造家を招き、時には昔ながらの手法に固執する杜氏を更迭するなど実行と改良を重ね、軟水醸造法は1894年ごろにはほぼ完成を見た。現代では仙三郎が実証した軟水醸造法に、衛生的なタンク、冷温機などの設備、精米歩合の低い酒米、協会酵母などの当時は無かった技術を組み合わせることでより華やかですっきりとした酒が造られている。仙三郎が開発した「すっきりとして華やかな香りのする酒(当時は吟醸という言葉は一般的ではなかった)」を現代の「吟醸酒」まで高めた明治から平成そして令和の技術者たちの存在を忘れてはならない。仙三郎もまた独力で軟水醸造法を開発したわけでない。先人たちの知恵や同時代の醸造家から多くを学び、至ったアイディアを逆境に負けない実行力で実証したのだ。つくづく技術というものは積み重ねなのだと感じさせる。改めて吟醸酒の原点を生み出した三浦仙三郎に敬意を払いたい。。 
なお、三浦仙三郎を主人公とした映画「吟ずる者たち」が来年公開予定で製作中らしい。広島が誇る醸造文化を広めるものとして期待している。
参考 吟醸酒を創った男 著:池田朋子 時事通信社

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2019/11

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