英語をリンガ・フランカ(ELF)として用いる現象は、地理的な文脈にかかわらず、言語的背景の異なる人々が英語を言語選択として用いることにより相互コミュニケーションを可能にし、またそれを持続させる自然な現象である。言語学的観点からみると、トランスランゲージングは、言語が流動的かつ柔軟であるがゆえに不可避的に生じる現象であり、話者が自らの言語的資源を全体として活用することでELFコミュニケーションを円滑化し、言語的境界を超越するものである。
本研究では、日本に居住するアメリカ人、イスラエル人、タイ人の三名の多言語話者によるSNS上での真正なELFコミュニケーションを観察対象とした。特に、相互行為におけるトランスランゲージングの現象に焦点を当て、彼らの発話における事例を観察・分析した。さらに、文化の流動性や動態的な文化変容に特徴づけられるトランスカルチュラリズムについても同時に検討を行った。
分析の結果、三者間のELFによる言語的コミュニケーションに比べ、トランスランゲージングの出現頻度は有意に少なかったものの、その発生は以下の場面で確認された。すなわち、①伝達の効率性を確保する場合、②「あいづち」などのポジティブなバックチャネルを生成する場合、③自己の個人的・社会的アイデンティティを維持しようとする場合である。