体育科教育学の分野では、これまで多くの研究者により、体育の授業改善や教授技能の向上に向けた授業研究が行われてきた。
高橋は、「良い体育授業」を生み出す一般的な傾向を明らかにした。高橋は、教師の指導の重要性に関する研究として、教師の相互作用行動が児童の形成的授業評価に大きく影響を及ぼしていることを指摘した。また、教師の相互作用行動において、特に、言語的フィードバックの表現の仕方が、頻度以上に形成的授業評価に影響を及ぼすことを明らかとした。
しかしながら、これらの研究は、一般的な体育授業における児童の形成的授業評価を分析対象とした研究であり、より高度な指導技術が求められる下位児童への指導を対象としたものではない。下位児童たちは、学習に関し、「何をするのか」、「どのようにするのか」、「どれくらいの能力を発揮するのか」などといった内容について不確実さが残る。つまり、教師は、児童の情報を的確に把握すると共に、受け手である児童の処理能力に合わせた言語的フィードバックを提供することが求められる。
そこで本研究では、体育授業中における教師の言語的フィードバックと下位児童の形成的授業評価との関係について検討することを目的とした。
本研究は、小学校の跳び箱運動において、I県H小学校2年生1学級、S県Z小学校3年生1学級、N小学校4年生2学級の合計134名の児童を、調査・分析の対象とした。データの収集に際し、体育授業中の教師の指導行動を1台のビデオカメラとワイヤレスマイクを用いて記録・録画した。教師の言語記録については、下位児童との相互作用行動を中心に言語的フィードバックを分析対象とした。
その結果、教師の言語的フィードバックの頻度が少なかった下位児童の形成的授業評価は、先行研究と同様に、負の相関関係が認められた。一方で、教師の言語的フィードバックの頻度が多かった下位児童の形成的授業評価においては、正の相関関係は認められなかった。
以上のことから、下位児童において、受け手の情報処理能力を上回る言語的フィードバックは形成的授業評価を下げてしまうことが明らかとされた。つまり、下位児童については、言語的フィードバックの頻度以上に、教師が児童の躓きを的確に見抜き、それに対して適切な言語的フィードバックを与えることが、重要であることが示唆された。