講演・口頭発表等

基本情報

氏名 佐藤 宗大
氏名(カナ) サトウ タカヒロ
氏名(英語) SATO Takahiro
所属 文学部 国語教育学科
職名 講師
researchmap研究者コード
researchmap機関

タイトル

ジェンダーと論理:トシの言葉を紡ぐもの、抑圧するもの

講演者

佐藤宗大

単独・共同の別

その他

会議名

発表年月日

2026/05/31

開催年月日(From)

開催年月日(To)

査読の有無

無し

招待の有無

有り

記述言語

日本語

国・地域

日本

会議区分

国内会議

国際共著

国際共著していない

会議種別

シンポジウム・ワークショップパネル(指名)

主催者

全国大学国語教育学会

開催地

大和大学

URL

形式

無償ダウンロード

概要

本発表は、『自省録』(宮澤トシ)を「ジェンダー」という視角から分析し、トシにとっての「書くこと」やそのガイドとしての論理が、彼女をいかに抑圧しているかを考察することを目的とする。
【問題設定】
先行研究における『自省録』の評価は、総じてトシへの肯定的な影響関係に集中してきた。山根知子の一連の研究(山根 2003; 2020; 2023)は、成瀬仁蔵の宗教観がトシにエンパワメントをもたらしたとして、その影響関係を肯定的に描いてきた。また、佐藤(2025)は『自省録』における論理の役割をトシの「新生」へのエンパワメントとして評価している。本発表はこれらの評価を問い直し、成瀬の言説およびトシ自身の論理が、根源的にはトシを抑圧する契機を内包していた可能性を論じる。
【考察1:成瀬仁蔵の女子教育観とその限界】
成瀬仁蔵は『女子教育改善意見』(博文館, 1918)において、臨時教育会議の審議主査委員として独自の女子教育論を展開した。同著は、家政学の重視(p.26)や、女子が男性を支え慰籍することを通じた社会発展(p.34)を中心的な主張とするものであり、その根底には男性中心的社会観が通底している。トシが大学4年次にこの著作を課題として読んでいた記録(山根 2023:186-200)があることを踏まえれば、成瀬の言説はトシを東京においてもなお本質的には解放しえなかった可能性がある。
【考察2:『自省録』の論理とメデューサ話法】
『自省録』の論考の中心的課題は「新生」であり、「過去の重苦しい囚われから脱し超越」(山根 2023:255)するための、過去との対決・精算の試みとして位置づけられてきた。しかし、トシはスキャンダルに直面した当初、「自分は正しい、少くとも人々の思ふ様な疚しさも暗さもない」「何と云ふ不公平な世間であらう」(山根 2023:267)と記しており、自身の「怒り」を明確に表明していた。それにもかかわらず、『自省録』の執筆を通じてトシはこの「怒り」を封じ込め、自身を罪人として位置づけることで「新生」へと向かっていく。
この過程はチェリー(2024)の提唱する「メデューサ話法」――女性の「怒り」を不当かつ危険なものとして女性自身にも語らせる言説様式――として読み解くことができる。さらに、Anderson(1995)がフェミニズム認識論において指摘するように、科学的・論理的思考もまた社会的価値観の影響から免れず、ミソジニー的傾向を反映しうる。トシの行論における論理は、「新生」へのエンパワメントであると同時に、「怒り」を抑圧するメデューサ話法を強化する思考として機能していた可能性がある。
【結論】
本発表は、『自省録』における抑圧の構造を二層で捉えた。第一に、成瀬仁蔵の男性中心主義がトシの価値観を根底において拘束していたこと、第二に、トシ自身が用いた論理がメデューサ話法を強化する機能を担っていたことである。これらを踏まえるならば、『自省録』においてトシが本当に解放されたといえるかどうか、改めて問い直される必要がある。

備考