児童生徒のウェルビーイング及びエージェンシーの育成が希求されている(UNESCO, 2015;
OECD, 2019)。それに伴い,多様な子どもたちの「深い学び」の保障,いわゆる「多様性の包
摂(Equity) 」の実現が課題となっている(中央教育審議会,2025)。体育学習についても,特
定種目等の競技力や技能習熟を目的とするのではなく,試行錯誤を通して「動き」 「運動の行い
方」 「運動との関わり方」等を学ぶものとして再構成されつつある(文部科学省,2026)。そこ
で本研究では,メルロ=ポンティの身体論を視座として,多様性の包摂に資する体育授業にお
ける学びを,自己と世界との関係を更新する過程として再検討する。メルロ=ポンティにおい
て身体とは,客観的に測定される対象ではなく,身体図式を通して世界を知覚し,意味づけ,
行為可能性を開く主体である(メルロ=ポンティ, 1945)。つまり「できる/できない」は単な
る技能到達の有無ではなく,児童生徒にとっての対象・他者・環境に対する行為可能性の現れ
を示す。既有の身体図式では十分応答できない局面において,児童生徒は対象・他者・環境と
の不一致を経験する。しかし,この不一致を契機とした身体図式の再編成を通して,行為可能
性は拡張されうる。このように考えると,試行錯誤を通した「動き」や「運動との関わり方」
の学びとは,行為可能性の閉ざされが,身体図式の再編成によって新たな行為可能性の開かれ
へと転化する過程として捉えられる。この過程は,すべての学習者に開かれているとともに,
Meaningful Physical Education(Beni et al., 2017)やPhysical Literacy(岡出, 2022)の議論と
も接続しうる。よって教師には,すべての学習者の行為可能性の開かれを支える学習環境をデ
ザインと,それを可能にする「見取り」の力量が一層求められる。