醸造酒中の 5-アミノレブリン酸(ALA)濃度に影響する製造要因の探索
農学部先端食農学科 〇佐々木 慧(研究代表者) 原 百合恵
1. 目的
5-アミノレブリン酸(ALA)とは生物に普遍的に存在するアミノ酸の一種であり、細胞内で代謝され ヘムやクロロフィルなどの前駆体となる物質である 1)。2013 年より光合成細菌による発酵法で製造 された ALA リン酸塩が食品成分として認められており、2015 年にこれを配合した機能性表示食品が 届け出されている 2)。ALA は様々な食品に含まれているが、特に日本酒、黒酢、ワインなど発酵食品 に多く含まれている(それぞれ 0.70∼3.53、1.5、1.10∼1.73mg/kg)ことも報告されている 3)。
日本酒中の ALA 濃度に関して、筆者は市販清酒の各種分析値を統計解析することで、ALA 濃度に影 響しうる候補となる製造要因を抽出し、抽出した製造要因の実証試験を行った。その結果精米歩合の 高い原料米と清酒酵母の内容物が清酒中の ALA 濃度を高める原因となることを報告している 4)。この ように清酒中の ALA 濃度に関してはある程度研究が進んでいる一方で、同じ醸造酒であるハチミツ酒 やワインに含まれる ALA 濃度に関する報告はほとんどない。
この度はハチミツ酒やワインのような醸造酒にどの程度 ALA が含まれているかの詳細を明らかに するため、様々な市販のハチミツ酒やワインを購入して ALA 濃度を測定した。また、各種分析項目の 測定結果を統計解析することで、ハチミツ酒やワインの ALA 濃度に影響しうる製造要因について検討 し、ALA 濃度を高める製造条件を確立することを目的とした。
2. 方法
統計解析用試料の購入
ネット通販を利用して購入した 38 点のハチミツ酒を使用した。購入に際しては、統計解析に適切 な条件となるように、試料の分類、種類、原料、アルコール度、味の傾向、産地、製造国など、製造 条件に偏りが生じないように選別した。試料の種類の内訳は、その他の醸造酒が 28 点、リキュール が 10 点となった。ワインに関しては国産ワインを中心に様々なブドウの品種のワインが揃うように 商品を選択し、赤ワイン 11 点、白ワイン 7 点の計 18 点のワインを酒販店とネット通販を利用して購 入した。
市販酒の分析
ALA 濃度はエーリッヒ法 5)を用いて分析した。酸度、アミノ酸度は国税庁所定分析法 6)に基づき分 析した。グルコース濃度はグルコースキット(グルコース CⅡテストキット Wako)を用いて測定し た。全糖濃度はフェノール硫酸法で測定した。比重と密度は酒類用振動式密度計(DA-155、京都電子 工業株式会社製)を使用して測定した。分光光度計(U-2910、株式会社日立ハイテク製)を用いて、 260nm、 420nm、 430nm の波長の吸光度を測定した。
統計解析
ハチミツ酒を対象とした統計解析にはフリーの統計ソフト EZR7)を使用した。前処理として、 Smirnov-Grubbs 検定で外れ値として検出された測定値は統計解析の対象から除外した。次に Kolmogorov-Smirnov 検定を行い、正規分布とした変数と対数変換後に正規分布した変数(log(変数) と記載)を用いた。ALA 濃度もしくは log(ALA)を目的変数とし、それ以外の変数を説明変数としてス テップワイズ法の重回帰分析を行った。ステップワイズ法の様式は AIC 方式とし、多重共線性の基準 である VIF の値がすべて 5 以下のモデルを選択した。数値で表すことのできない定性データの解析で は、定性項目ごとに集団に分類し、集団間の比較を行った。試料の分類をその他の醸造酒とリキュー ルに分類し、Mann-Whitney の U 検定によって 2 群間の分析値を比較した。蜂蜜の種類は「百花蜜」、「その他の蜂蜜」、「そば蜂蜜」の 3 つに分類し one-way ANOVA を行った。副原料は「なし」、「ハー ブ」、「フルーツ」、「米麹」に分類し、Bonferroni の多重比較検定を行った。
3. 結果と考察
ハチミツ酒の ALA 分析結果
ハチミツ酒 38 点の ALA 濃度は、0.60∼3.11mg/L と日本酒と同程度であり、ハチミツ酒の ALA 濃度 は他の食品と比較して高いレベルにあることが明らかになった。また試料間で ALA 濃度のばらつきが 大きいことから、製造条件が ALA 濃度に大きく影響している可能性が示唆された。
ハチミツ酒の統計解析結果
log(ALA)を目的変数としたの重回帰分析の結果、R²は 0.381 となり、十分な精度の重回帰モデルは 得られなかった。このことから今回分析した変数には ALA 濃度を直接説明できる変数は含まれていな いと考えられた。一方で、その他の醸造酒 26 点を用いた重回帰分析では R²は 0.608 と精度が改善さ れた。この結果から、製法が異なるその他の醸造酒とリキュールは試料集団を別々に分けて解析する ことが望ましいと考えられた。
その他の醸造酒 28 点とリキュール 10 点の集団の ALA 濃度(mg/L)の中央値はそれぞれ 1.20 と 1.35 で有意な差は見られなかった。百花蜜、その他の蜂蜜、そば蜂蜜の集団の ALA 濃度(mg/L)の平均値は それぞれ 1.41、1.25、1.82 であり one-way ANOVA の p 値が 0.110 と有意差は見られなかったもの の、そば蜂蜜の集団で ALA 濃度がやや高い傾向が確認できた。この結果からそば蜂蜜に着目し、様々 なそば蜂蜜を用いた実証試験を予定している。なお、そば蜂蜜の集団では吸光度が他の集団と比べて 高く有意差が認められた。副原料の集団間の ALA 濃度の比較では、集団間で大きな差は見られず、p 値が 0.768 と有意差は確認されなかった。この結果から米麹などの副原料が ALA 濃度に影響している 可能性は低いと判断した。
ワインの分析結果
ワインの分析では ALA 濃度の測定値が安定せず、信頼できる測定結果が得られなかった。これは ワイン中に含まれる何らかの物質がエーリッヒ法の着色反応を阻害したためと考えられたため、HPLC を用いた分析を検討中である。
4. 参考文献
1) 高橋究, 生命の根源物質 5-アミノレブリン酸(ALA)の多彩な応用, 沙漠研究, 28, 66-72, 2018.
2) 田中徹, 土屋京子, 臨床試験に基づいた 5- アミノレブリン酸リン酸塩含有機能性表示食品の開 発, 生物工学会誌, 95, 529-532, 2017.
3) ポルフィリン-ALA 学会編,機能性アミノ酸 5-アミノレブリン酸の科学と医学応用, 東京化学同 人, 189, 2015.
4) 佐々木慧, 清酒中の 5-アミノレブリン酸濃度に影響する製造要因に関する研究, 2022 年度農芸 化学大会要旨集, 317, 2022.
5) Nishikawa S, Watanabe K, Tanaka T, Miyachi N, Hotta Y, and Murooka Y, Rhodobacter sphaeroides mutants which accumulate 5-aminolevulinic acid under aerobic and dark conditions, J. Biosci. Bioengineering, 87, 798-804, 1999.
6) 国税庁, 国税庁所定分析法(訓令) 清酒,
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/sonota/070622/pdf/03.pdf
7) Kanda Y, Investigation of the freely available easy-to-use software ‘EZR’ for medical statistics, Bone Marrow Transplantation, 48, 452-458, 2013.