ユネスコが推進する一連の価値教育プログラムにおいて,市民性の育成は常に中心的な教育課題であり続けてきた。本稿ではユネスコの代表的な価値教育である1)国際理解教育(EIU),2)万人のための教育(EFA),3)持続可能な開発のための教育(ESD),4)地球市民性教育(GCED)において,育成されるべき市民像がどのように捉えられてきたのかを概観した。いずれのプログラムでも平和で持続可能な社会の実現に貢献できる価値観,態度,コンピテンスをもった人格が市民像の中核に措定されており,「平和の文化」という対話志向の心性を基礎づけることが示された。とくに地球市民性教育(GCED)においては,この市民像が最も学際的かつ体系的に展開されているが,その顕著な特徴として,従来の国民アイデンティティの枠を超える地球市民性が新たなアイデンティティとして追求されていること,認知的学習,社会・情動的学習,行動的学習を含む全人的アプローチの重要性が強調されていることが挙げられる。異文化間対立の先鋭化という時代背景をふまえた時,異文化間の葛藤解決能力の醸成が急務であり,視点取得能力の育成が学習課題として導入される必要があることが指摘された。